高血圧症
【高血圧について】
血圧が高くなるほど、脳心血管病、慢性腎臓病(CKD)などの罹患リスクおよび死亡率が高くなることが知られています.本邦の高血圧者数は約4,300万人と推定され、そのうち3,100万人(72%)が140/90 mmHg 以上の管理不良となっています. 3,100万人のうち、自らの高血圧を認識していない者が1,400万人(高血圧の33%)、認識しているが未治療の者が450万人(同10%),薬物治療を受けているが管理不良の者が1,250万人(同29%)と推定されています。
高血圧は無症候で経過しますが、決して放置してはいけません。無症候でも動脈硬化性疾患が進行している場合もあり、脳卒中や心筋梗塞の予防の為には、動脈硬化の評価は必要となります。日本における血圧に起因する脳心血管病死亡者数は年間約10万人と推定され、高血圧が脳心血管病の最大の危険因子です。寿命のみならず、健康寿命を延伸させるうえでも、血圧の管理はとても大切です。
【血圧の管理について】
外来初診時の血圧レベル別の高血圧管理では、(1)高値血圧(130-139/80-89 mmHg)の場合、生活習慣の修正・非薬物療法で経過観察致します.低・中等リスクの方は3か月後に再評価し、十分な降圧がなければ生活習慣の修正・非薬物療法の強化を行います。高リスクの方は、十分な降圧がなければ生活習慣の修正・非薬物療法の強化と薬物療法を開始致します.
(2)高血圧(140/90 mmHg 以上)の場合、低・中等リスクの方は1か月間、生活習慣の修正・非薬物療法で経過観察を行い、十分な降圧がなければ生活習慣の修正・非薬物療法の強化と薬物療法を開始致します.高リスクの方は、ただちに薬物療法を開始致します.
*血圧値の考え方、低・中等・高リスクの説明、生活習慣修正の具体的な項目は下記をご参照ください.
【成人における血圧の分類】
診察室血圧
正常血圧 | 120/80 mmHg 未満 |
正常高値血圧 | 120-129/80 mmHg 未満 |
高値血圧 | 130-139/- mmHg、-/80-89 mmHg |
I 度高血圧 | 140-159/- mmHg、-/90-99 mmHg |
II 度高血圧 | 160-179/- mmHg、-/100-109 mmHg |
III 度高血圧 | 180/- mmHg 以上、-/110 mmHg 以上 |
家庭血圧
正常血圧 | 115/75 mmHg 未満 |
正常高値血圧 | 115-124/75 mmHg 未満 |
高値血圧 | 125-134/- mmHg、-/75-84 mmHg |
I 度高血圧 | 135-144/- mmHg、-/85-89 mmHg |
II 度高血圧 | 145-159/- mmHg、-/90-99 mmHg |
III 度高血圧 | 160/- mmHg 以上、-/100 mmHg 以上 |
【脳心血管病リスクの層別化】
*予後影響因子:血圧、年齢(65歳以上)、男性、脂質異常症、喫煙、脳心血管病(脳出血、脳梗塞、心筋梗塞)の既往、非弁膜症性心房細動、糖尿病、尿蛋白のある慢性腎臓病(CKD).
低リスク | 高値血圧、I 度高血圧で予後影響因子がない状態. |
中等リスク | II 度高血圧で予後影響因子がない状態.高値血圧、I 度高血圧で年齢(65歳以上)、男性、脂質異常症、喫煙のいずれかがある状態. |
高リスク | 高値血圧、I 度高血圧で脳心血管病(脳出血、脳梗塞、心筋梗塞)の既往、非弁膜症性心房細動、糖尿病、尿蛋白のあるCKDのいずれか、または年齢(65歳以上)、男性、脂質異常症、喫煙の危険因子が3つ以上ある状態.II 度高血圧で危険因子が1つ以上ある状態.III 度高血圧である状態. |
【降圧目標】
75歳未満
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
目標血圧 | 130/80 mmHg 未満 | 125/75 mmHg 未満 |
ただし脳血管障害、尿蛋白陰性の慢性腎臓病(CKD)の場合は、①診察室血圧 140/90 mmHg 未満(130/80 mmHg 未満への降圧は個別に判断)、②家庭血圧 135/85 mmHg 未満(125/75 mmHg 未満への降圧は個別に判断)を目標とする.
75歳以上
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
目標血圧 | 140/90 mmHg 未満 | 135/85 mmHg 未満 |
ただし脳血管障害、冠動脈疾患、尿蛋白陰性の慢性腎臓病(CKD)、糖尿病、抗血栓薬内服中の場合は、忍容性があれば①診察室血圧 130/80 mmHg 未満、②家庭血圧 125/75 mmHg 未満を目標とする.
【生活習慣の修正項目】
1 | 食塩制限:1 日 6 g 未満 |
2 | 野菜・果物の積極的摂取 |
3 | 適正体重の維持:BMI(体重 Kg ÷ 身長㎡)25 未満 |
4 | 運動療法:軽強度の有酸素運動(動的および静的筋肉負荷運動)を毎日 30 分、または週 180 分以上行う. |
5 | 節酒:エタノールとして男性は1 日 20-30 ml 以下、女性は 1 日 10-20 ml 以下に制限する. |
6 | 禁煙 |
【生活習慣修正項目の補足説明】
1.食塩量としては、通常梅干し 1 個 1-2.5 g、ザーサイ(10g)で 1.4 g、生姜の酢漬け(20 g)で 1.4 g、高菜付け(20 g)で 1.2 g、たくあん 3 切れ(30 g)で 1.3 g です.普段何気なく口にすることが多いと思いますが、意外と塩分が含まれているため食べ過ぎに注意しましょう.
2.飽和脂肪酸、コレステロールの摂取を控える.多価不飽和脂肪酸、低脂肪乳製品を積極的に摂取しましょう.
3.BMI 18.5 未満が「低体重(やせ)」、18.5-25 未満が「普通」、25 以上が「肥満」と定義されています.BMI 25.0-29.9では高血圧発症リスクが 1.5-2.0 倍に上昇します.
4.運動療法により収縮期血圧で 2-5 ㎜Hg、拡張期血圧で 1-4 ㎜Hgの低下が期待できます.脂肪 1 ㎏を消費するのに必要なエネルギー(カロリー)は約 7200 Kcal 程度になります.つまり1カ月で 1 ㎏の脂肪を減らすためには 1 日あたり 240 Kcal 必要になります.自分にあった運動方法で継続していきましょう.
5.アルコールの単回摂取は数時間持続する血圧低下をもたらしますが、長期的飲酒習慣は高血圧の要因となり、大量飲酒は脳卒中やがんのリスクも高まります.男性だと日本酒約1合、ビール中瓶1本、焼酎半合、ワイン2杯程度が目安です.女性の場合は男性の約半分が目安となります.
6.1本の紙巻タバコの喫煙で、15 分以上持続する血圧上昇を引き起こします.禁煙後の血圧管理においては、食生活の変化などに伴う体重増加に注意しましょう.たばこには、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増やし、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を下げる作用や、血圧上昇させる作用があります.この相互作用により動脈硬化が進行し、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患、狭心症や心筋梗塞などの心疾患などのリスクが高まります。その他、癌(肺がん、口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、すい臓がん、子宮頸がん、膀胱がんなど)、慢性閉塞性肺疾患のリスクも高まります。