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大脳基底核変性症

【疾患概念】

大脳基底核変性症(corticobasal degeneration: CBD)は、脳の表面である大脳皮質と脳深部である皮質下神経核(特に黒質と淡蒼球)の神経細胞が脱落し、神経細胞およびグリア細胞に異常リン酸化タウが蓄積する疾患(タウオパチー)です。大脳皮質におけるグリア病変(astrocytic plaque)は診断的な価値を有します。初めて論文に記載されて以来、本疾患は大脳皮質徴候と錐体外路徴候を呈し、左右差を認めるという概念が定着しました。しかし、この臨床像に合致しながらも、CBDとは異なる多彩な背景病理を呈しうる病態があることが明らかとなり、CBDの臨床診断は難しいものになりました。混乱をさけるため、CBDという名称は病理診断名として使用し、代わって大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome: CBS)という名称を診断名として使用するようになりました。

【原因】

神経細胞およびグリア細胞内に広範に異常リン酸化タウが蓄積します。進行性核上性麻痺(PSP)と同様に4リピートタウが蓄積することから、4リピートタウオパチーに含まれます。4リピートタウが蓄積する原因については不明です。家族例の報告は稀であるが、微小管関連蛋白質タウ(MAPT)の遺伝子変異で生じることが報告されています。

【疫学】

正確な有病率は不明ですが、日本では10万人当たり2人程度の稀な疾患であると考えられています。

【症状・兆候】

典型的には、(1)中年期以降に発症し、緩徐に進行する神経変性疾患で、(2)大脳皮質徴候として肢節運動失行(指先を使った細かい動作ができない)、観念運動失行(自発的にある運動を行うことができても、口頭で命令されたり、模倣するように命令されるとできない)、皮質性感覚障害(手で握らせた身近な物の同定、手掌に書かれた数字の識別、指先を安全ピンで刺激し、刺激が1点のみなのか2点同時に加わったものか識別できない)、他人の手徴候(背中に手を回し、左手を右手でつかんだ時に左手を自分のものでは無いと感ずる現象、一方の手が自分の意思とは無関係に、あたかも他人のように、あるまとまった運動をおこす現象)などを、(3)錐体外路徴候として無動、筋強剛、ジストニア(不随意で持続的な筋収縮にかかわる運動障害と姿勢異常の総称)、ミオクローヌス(突然の電撃的な四肢・顔面・体幹などに生じる意識消失を伴わない不随意運動)を呈し、(4)これらの神経症候に著名な左右差を認めるという特徴があります。このような症例は上述のように大脳皮質基底核症候群(CBS)と臨床診断されます。CBSの背景病理は、大脳基底核変性症(CBD)が半数未満で、進行性核上性麻痺(PSP)とアルツハイマー病(AD)が20%程度であり、そのほか、前頭側頭葉変性症、ピック病、レビー小体型認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病などの多彩な疾患が原因となりうることが報告されています。逆にCBDと剖検により病理診断された症例の生前の臨床像を解析した結果、臨床像は多い順に大脳皮質基底核症候群(CBS)、進行性核上性麻痺(PSP)症候群(リチャードソン症候群:RS)、前頭側頭型認知症(bvFTD)、アルツハイマー病(AD)様認知症、失語を呈することが報告されています。

【検査】

CBSでは検査所見や画像に左右差がみられるのが特徴で、頭部CT、MRIは初期には正常であるが、進行とともに非対称性の大脳萎縮を呈します。SPECTでも同部位の集積低下、脳波では症候優位側の対側に徐波化がみられます。

【治療】

近年、タウなどを標的とした病態抑止療法の実現を目指した臨床試験が計画されていますが、根本療法は実現していないため、対症療法を行っております。筋強剛や無動に対してはL-ドパ製剤が試みられますが、有効例は少なく、効果は一時的です。四肢のジストニアや関節拘縮、開眼困難に対してはボツリヌス注射が行われることがあります。ミオクローヌスに対してはクロナゼパムが有効です。認知機能障害に対してアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の有効性を示す症例報告がありますが、背景病理にアルツハイマー病(AD)がある可能性があり効果も一定しません。

【予後】

予後は一般に不良であり、生存期間は短く、欧米で平均8年(5~10年)、日本では平均6年(3~10年)と報告されています。しかし経過は症例によって様々であり、病型毎の予後についての検討が必要です。

【診断基準】

これまでにいくつかの診断基準が提唱されています。日本では指定難病におけるCBD診断基準が使用されています。主要項目は(1)中年期以降に発症して緩徐に進行し、罹病期間が1年以上である、(2)錐体外路徴候(①非対称性の四肢の筋強剛ないし無動、②非対称性の四肢のジストニア、③非対称性の四肢のミオクローヌス)、(3)大脳皮質徴候(①口腔ないし四肢の失行、②皮質性感覚障害、③他人の手徴候)、で、(4)除外すべき疾患および検査所見を確認する。(1)を満たし、(2)および(3)でそれぞれ2項目以上あり、(4)を満たして他の疾患を除外できた場合に診断がなされます。

【重症度】

modified Rankin Scale (mRS)、食事・栄養、呼吸の各評価スケールを用いて、いずれかが3度以上の場合を重症と判定する。

 

 

<参考;各評価スケール>

日本版modified Rankin Scale (mRS)判定基準

0.全く症候がない。

1.症候はあっても明らかな障害はない:

  日常の勤めや活動は行える。

2.軽度の障害:

発症以前の活動が全て行えるわけではないが、身の回りのことは介助なしに行える。

3.中等度の障害:

  何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える。

4.中等度から重度の障害:

 歩行や身体的要求には介助が必要である。

5.重度の障害:

  寝たきり、失語状態、常に介護と見守りを必要とする。

6.死亡

 

食事・栄養(N)

0.症候なし。

1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの徴候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。

2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。

3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する・

4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。

5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。

 

呼吸(R)

0.症候なし。

1.肺活量の低下などの所見があるが、社会生活・日常生活に支障ない。

2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。

3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。

4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。

5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。

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