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脊髄小脳変性症

【疾患概念】

脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration: SCD)は、小脳や脊髄を中心とし、時には大脳や末梢神経も含む神経変性疾患の総称で、多くの疾患が含まれます。日本の指定難病制度では遺伝性痙性対麻痺も含まれます。

【原因】

一部は単一遺伝子の変異のよる遺伝性で、それ以外は孤発性です。

【疫学】

平成28年度の特定医療費(指定難病)受給者証所持者は約27,000人でした。そのうち約50%が孤発性あるいは家族歴がなく、多くは皮質性小脳萎縮症と診断されています。約40%が遺伝性で、ほとんどが常染色体優性遺伝性(50%の確率で病気に関係する遺伝子が伝わります。男女差はありません。)で常染色体劣性とX染色体連鎖性は極めて稀です。残り10%が遺伝性痙性対麻痺です。優性遺伝性では、脊髄小脳変性症46型(SCA46)まで40種類以上知られているが、日本ではマチャド・ジョセフ病(SAC3)、SCA6, SCA31, 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の4疾患で70~80%を占めています。劣性遺伝性では、欧米人で最も多いフリードライッヒ失調症は日本にはなく、眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発性運動失調症(EOAH)[眼球運動失行を伴う失調症I型(AOA1)]、ビタミンE単独欠損性運動失調症(AVED)などがみられます。遺伝性痙性対麻痺(SPG)で実際に遺伝子が同定されているのは50%程度です。現在80を超える遺伝子が知られ、SPG1から順に番号が振られています。日本で最も多いのはSPG4です。

【症状・兆候】

小脳失調症状として、失調性歩行(運動麻痺や筋力低下はないが、円滑な歩行ができない。ふらふら歩行。)、上肢・下肢の協調運動障害(測定障害;手足の運動を目的のところで止めることができない状態、運動分解;指鼻試験では肩関節および肘関節による上腕を動かす方向と、指を鼻に持っていく運動方向が分解するため、指先の動作として円滑な動作をとらない、企図振戦;安静時には生じないが、目標物に手が届きそうになると強くなる震え)、眼振(眼球の振るえ)、小脳性構音障害(酔っぱらったような、とぎれとぎれで不明瞭な会話)、筋緊張低下がよくみられます。ほかに、寡動、筋強剛等のパーキンソン症候、ミオクローヌス(筋肉や筋肉群に起こる素早い稲妻のような収縮)等の不随意運動、痙縮等の錐体路徴候、排尿障害・起立性低血圧・発汗障害等の自律神経障害など多彩です(多系統障害型)。SCA2では緩徐眼球運動(追視時の眼の動きが遅くなる)、SCA3ではびっくり眼(見開いた目の症状)、ジストニア(不随意で持続的な筋収縮にかかわる運動障害と姿勢異常の総称)、ミオキミア(筋肉の一部がピクピクと痙攣する状態)、SCA7では網膜変性などの特徴的所見があります。遺伝性痙性対麻痺ではほぼ痙性対麻痺(痙性歩行、痙縮、腱反射亢進、病的反射)のみの純粋型とそれ以外の症状も目立つ複合型に大別されます。

【検査】

遺伝性痙性対麻痺以外では、通常、頭部MRIやCTにて小脳や脳幹の萎縮を認めるが、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の白質病変など多系統障害では大脳にも病変を認めることもあります。ビタミンE単独欠損性運動失調症(AVED)ではビタミンEの低下、眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発性運動失調症(EOAH)では低アルブミン血症などの特徴的所見があります。

【治療】

小脳失調症候に対しては甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)あるいはその誘導体であるタルチレリンとプロチレリンが市販されているが、治療効果、感度などはまだまだ小さいです。短期集中リハビリテーションの効果が確認されており普及が望まれます。運動失調以外の症候にはそれぞれ対症療法を行います。根本的治療法は存在しないが、対症療法とリハビリの組み合わせで、できるだけADLを保ち寝たきりを防ぐことが大切です。

【予後】

SCA3, SCA2, SCA1, DRPLAなど多系統障害型の病型の予後は、パーキンソン症候、自律神経症候など合併する症候の程度に影響を受けます。SCA6やSCA31などほぼ小脳失調症候のみの病型では、生命予後にはほとんど影響はないと思われます。

【診断基準】

診断のポイントは、潜行性に発症し、緩徐進行性の運動失調症や痙性対麻痺を呈し、腫瘍、血管障害、炎症、神経梅毒などの感染症のほか、特に自己免疫性病態(橋本病、シェーグレン症候群、多発性硬化症、抗GAD抗体小脳炎等)、傍腫瘍性症候群(抗Hu抗体、抗Ri抗体、抗Yo抗体、抗Tr抗体、抗VGCC抗体等)、甲状腺機能低下症、アルコール中毒、ビタミンB1・B12・葉酸欠乏症、薬剤性(フエニトイン等)、脳腱黄色腫、ミトコンドリア病などの二次性小脳失調症と二次性痙性対麻痺(脊柱疾患,腫瘍、MS、視神経炎脊髄炎 )を除外することです。これら疾患は担当医の診察評価により鑑別の必要があるものを検査することとなります。

【重症度】

modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸の各評価スケールを用いて、いずれから3度以上の場合を重症と判定する。

 

*重症度評価スケールは、大脳基底核変性症の疾患説明の最後にまとめとして記載しています。

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