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シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)

【疾患概念】

シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease: CMT)は最も頻度の高い遺伝性ニューロパチー(末梢神経障害:全身に隈なく分布する末梢神経が障害されることにより、手足のしびれや筋力低下など、さまざまな症状が現れる病気の総称です。神経系には、中枢神経と末梢神経の2種類がり、中枢神経とは脳と脊髄のことを指し、末梢神経はそこから手足の先まで枝分かれするすべての神経を指します)です。その有病率は、欧米では人口2,500人当たり1人、日本でも1万人当たり1.08人との報告があります。CMTの多くは0~20歳といった若年発症であるが、50歳前後での発症もあります。

 

【原因】

CMT関連の原因遺伝子は80種類以上が同定されています。

 

【症候】

典型的には凹足(おうそく;足の縦アーチが通常よりも高い状態、ハイアーチのことで、足底面が中央部で地面から離れているように見える)、ハンマー趾(足の指が異常に曲がったまま動かなくなった状態)、鶏歩(けいほ;足首を上にあげる動きの低下のためつま先が上にあがりにくくなり、歩く際に毎回振り上げた足が地面から上に上がらず、上がってもつま先がすぐ床に落ちてしまう歩き方)、下肢優位の筋萎縮(逆シャンパンボトル型:筋肉の萎縮がシャンパンボトルを逆さまにしたように見えること)、感覚障害、腱反射の消失(太い骨格筋につながる腱を筋が弛緩した状態で軽くのばしハンマーで叩くと、正常であれば一瞬遅れて筋が不随意に収縮する反射が見られなくなる)、疼痛(痛み)などを認めます。非典型的症状として、脳神経障害、声帯麻痺(声のかすれ、小さな声しか出せない、息切れ、飲み込みにくい等)、視神経萎縮(視力低下、視野狭窄をきたす)、錐体路障害(腱反射の亢進、筋緊張亢進、手・指・足のクローヌス:筋肉や腱を不意に伸張したときに生じる規則的かつ律動的に筋収縮を反復する運動)、近位筋優位障害(体幹に近い筋肉の障害;肩周囲・上腕部、太もも等)などを示す例もあります。

 

【検査】

CMTが疑われた場合には、必要に応じて神経伝導検査、神経超音波検査、腓腹神経生検を行います。遺伝子異常が検出されれば確定診断となります。PMP22遺伝子のFISH検査は健康保険が適応されています。神経伝導検査では、正中神経の運動神経速度を基準に、脱髄型、軸索型、中間型に大別されます。他の末梢神経障害(CIDP:慢性炎症性脱髄性多発根神経炎など)との鑑別も必要であり、経過中にCIDPを併発することもあります。脱髄型CMTでは、髄液蛋白の上昇や脊髄MRIで神経根の肥厚を認めることもあります。

 

【治療】

現時点で効果が証明された治療薬はありません。しかし、PMP22遺伝子発現抑制物質、神経栄養因子、小胞体ストレス軽減因子、ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害薬、マイオスタチン阻害薬、遺伝子治療などの研究が進められています。しびれ感や痛みに対しては、消炎解熱鎮痛剤、非ステロイド性抗炎薬(NSAIDs)、三環系抗うつ薬、プレガバリン、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害(SNRI)などが使用さています。機能障害に合った装具を装着することが大切です。リハビリテーションに関しては、下肢装着型補助ロボット(HAL)が保険適応となり治療の選択肢が増えました。足の変形が進行した場合、骨切り術などの整形外科的手術が適応となる場合あります。関節可動域制限の予防のためには、発症早期から下肢ストレッチ訓練を行う必要があります。

 

【症状を悪化させる可能性のある薬剤】

(1)確実に症状を悪化させる薬剤

・抗がん剤:ビンクリスチン

(2)中等度から重度なリスクのある薬剤

・抗がん剤:シスプラチン、パクリタキセル、ボルテゾミブ、サリドマイド

・抗不整脈薬:アミオダロン

・抗狭心症薬:ペルヘキシリン

・痛風薬:コルヒチン(長期使用で)

・抗リウマチ薬:レフルノミド、金チオリンゴ酸ナトリウム注射液

・抗菌薬:リネゾリド(長期投与で)

・寄生虫薬:メトロニダゾール

・抗HIV薬:ジダノシン、サニルブジン、ザルシタビン

・ビタミン剤:ビタミンB6

・抗酒療法:ジスルフィラム

・抗肝不全薬:ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン

(3)不確定もしくは軽度のリスクのある薬剤

・抗がん剤:フルオラシル、ドキソルビシン、エトポシド、ゲムシタビン、インターフェロンα、イホスファミド

・抗結核薬:エタンブトール、イソニアジド

・抗真菌薬:グリセオフルビン

・降圧剤:ヒドララジン

・リウマチ薬:インフリキシマブ、ペニシラミン

・抗潰瘍薬:ランソプラゾール、オメプラゾール

・抗てんかん薬:フェニトイン

・免疫抑制薬:タクロリムス

・高脂血症薬:アトルバスタチン、シンバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン

・抗うつ薬:セルトラリン

 

*薬剤を飲むリスクと得られる効果の、どちらを優先させるべきかは主治医とご相談してください。

 

【重症度】

2015年1月より指定難病となり、Barthel Index(バーセルインデックス)による重症度基準(85点以下)が設けられています。

 

*バーセルインデックスの評価項目は、食事・移乗・整容・トイレ・入浴・歩行(移動)・

階段昇降・更衣・排便・排尿の全10項目で構成され、各項目を自立度に応じて15点・10点・5点・0点で採点します。満点が100点であり全自立、60点が部分自立(カットオフ)、40点が大部分介助、0点は全介助と一般的にされています。

 

【予後】

生命予後は基本的に良好ですが、一部の例では生下時より重度の障害を示す例もあります。日々の運動習慣と食事療法により、適切な体重を維持することが大事です。

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