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ハンチントン病

【疾患概念】

ハンチントン病は(Huntington disease: HD)主に30代以降に発症する進行性の舞踏運動、認知障害、精神機能障害を主症状とする常染色体優性遺伝疾患です。1872年にHuntingtonが成人発症で遺伝性の舞踏運動と精神4症状を主張とする疾患として臨床報告を行ったことに由来します。

【原因】

1983年、Gusellaらによって4番染色体にハンチントン病の遺伝子IT15が存在することが明らかにされ、IT15がコードしているタンパク質はハンチンチンと命名されました。第1エクソンにはシトシン・アデニン・グアニン(CAG)の3塩基を単位とする繰り返し配列数が増加しています。CAGはグルタミンをコードしていることからハンチントン病はポリグルタミン病の1つです。ハンチンチンのグルタミンの繰り返し数と臨床症状の関係では、繰り返し数が多いほど発症年齢が若く、重症となります。世代を経る毎に繰り返し数は増加する傾向があり、発症年齢は若年化し表現促進現象といわれます。繰り返し数は26以下が正常範囲、27~35はハンチントン病の発症リスクはないがハンチントン病を発病する子が生まれるリスクがある。36~39はハンチントン病の発病のリスクはあるが症状がでないこともあり、40以上ではハンチントン病の発症と相関します。以下は難しい病態説明ですのでご関心があれば読まれてください。ハンチンチンは348kDaの大型タンパク質で、小胞輸送、エンドサイトーシス、オートファジー、転写調整など細胞の様々な働きに関わっているが、生理的機能の本質は明確となっていません。伸長したポリグルタミンはβシート構造をとり、凝集体を形成します。ハンチントン病患者脳では凝集体が増加していることから、病態との関与が示唆されています。

【疫学】

平成28年度末時点の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は917人であり、日本の患者数は1000人程度と推定されます。10万人当たり0.7人で、欧米の約1/10です。発症年齢は様々であるが、30~40代での発症の頻度が高く、20歳以下で発症した群を若年型ハンチントン病と呼んでいます。

【症状・兆候】

多くの症例では舞踏運動(自分の意志に反して行う運動で、手を曲げたり伸ばしたりする運動。舌を出したり引っ込めたりする運動。首を回す運動、首を後ろに伸ばしたりする運動など)を中心とする不随意運動や運動持続障害、精神症状を認める。発症早期は巧緻運動障害(手指が上手く使えない)と軽微な不随意運動、遂行機能障害(目的をもった一連の活動を効果的に成し遂げることができない)、うつ状態、易刺激性(ささいなことで不機嫌になる)などを認めるのみである。進行すると舞踏運動などの不随意運動が明らかとなり、随意運動も障害される。不随意運動はジストニア(筋肉が異常に緊張した結果、異常な姿勢、異常な運動を起す状態)やアテトーゼ(自分の意志に反して行う運動で、ゆっくりと手・足をねじるような運動を行う)、ミオクローヌス(突然の電撃的な、四肢・顔面・体幹などに生じる意識消失を伴わない不随意運動)、振戦のこともある。さらに進行すると構音障害(言葉を正常にはっきり発音する能力が失われる)が目立ち、人格障害や認知障害が明らかとなる。最終的には日常生活すべてで要介助、次いで臥床状態となる。若年型HDでは精神症状や認知機能障害で始まることが多く、発症早期に運動症状を呈することは少ない。運動症状として舞踏運動は目立たず、幼少期に発症した場合は多くの症例で舞踏運動は発症しない。約半数で筋強剛や無動などのパーキンソニズムを示す。発症年齢が若いほどてんかん発作の頻度が多く、約1/3の症例にみられます。

【検査】

一般採血検査、生化学検査では特記事項を認めません。頭部CT、MRI検査では脳深部(尾状核)の萎縮とそれに伴い側脳室前核の拡大が認められ、進行に伴い大脳萎縮も伴います。脳血流シンチグラフィーでは脳表層の前方・側方部(前頭葉・側頭葉)の血流低下を認めます。心理検査では前頭葉機能障害、感情障害、認知機能の全般的低下を認め、経過観察するうえでミニメンタルステート検査(MMSE)、前頭葉機能検査などがよく用いられます。

【治療】

現時点では根治治療はなく、舞踏運動などの不随意運動および精神症状など、個々の症状に対して対症療法を行います。不随意運動には主にドパミン受容体遮断作用を示す抗精神病薬を使用します。また2012年より、モノアミン小胞トランスポーター2(VMAT2)選択的阻害薬のテトラベナジン(商品名コレアジン)が承認されました。テトラベナジンは線条体の神経終末でドパミンを枯渇させることによって不随意運動を抑制する機序を有します。精神症状のうち問題になりやすい易刺激性については、緊急性や強度の攻撃性がある場合は第一選択薬が非定型抗精神病薬かベンザミド系抗精神病薬となります。うつや不安が強い場合には選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)第一選択となります。

【予後】

慢性進行性に増悪し、罹病期間は10~20年です。死因は低栄養、感染症、窒息が多いです。自殺の頻度も比較的高く注意する必要があります。

【診断基準】

診断のポイントは、(1)常染色体優性遺伝の家族歴、(2)進行性の舞踏運動を中心とした不随意運動、運動持続障害、易怒性などの性格変化・精神症状、認知症状、(3)脳画像検査で尾状核萎縮を伴う両側の側脳室拡大です。HTT遺伝子CAG反復配列解析の遺伝子検査により確定診断されます。鑑別診断として、症候性舞踏病(小舞踏病、妊娠性舞踏病、脳血管障害)、薬剤性舞踏病(抗精神病薬による:遅発性ジスキネジア、その他の薬剤性ジスキネジア)、代謝性疾患(ウィルソン病、脂質症)、その他の神経変性疾患(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、脊髄小脳変性症17型、有棘赤血球を伴う舞踏病)があげられます。

【重症度】

機能的評価としてBarthel Index(85点以下を対症)、精神症状評価として精神症状・能力障害二軸評価(精神症状評価2以上または能力障害評価2以上を対象)があります。

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