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多系統萎縮症

【疾患概念】

多系統萎縮症(multiple system atrophy: MSA)は成年期以降に発病し、組織学的に神経細胞とオリゴデンドログリアに異常蛋白であるαシヌクレインが蓄積し、進行性に神経細胞の変性脱落を来す疾患です。これらの神経病理は特に脳表の前方(運動野および前頭前野)、脳深部の線条体、脳幹部の橋、小脳を中心に認められます。歴史的には、発病初期から病期前半の主たる症候が小脳性運動失調であるものはオリーブ橋小脳萎縮症(olivo-ponto-cerebellar atrophy: OPCA)、パーキンソニズムであるものは線条体黒質変性症(Striato-nigral degeneration: SND)、自律神経障害であるものはシャイ・ドレ―ガー症候群と称されてきました。初期病変とそれに伴う症候は異なるが、進行するにつれてこれら三大症候は重複し、病理所見も重複してくることからMSAと総称されるようになりました。

【原因】

αシヌクレインの過剰な蓄積の原因は不明です。MSAは成年期以降に発病するが、稀に家族内発症する例もあります。何らかの遺伝的素因の関与が推定されており、一部に遺伝子変異が同定されています。

【症状・兆候】

中年以降に、小脳性運動失調、パーキンソニズム、もしくは自律神経障害のいずれかの症状で発病します。小脳性運動失調の症候としては、起立・歩行のふらつきに始まり、次いでボタンの掛けはずしや書字などが下手になり、発語は呂律が回らず緩徐・断綴性となります。日本では小脳症候で発病する病型が多いです。発病して間もない時期においては小脳症候が主体であり、画像診断で小脳萎縮はあるが脳幹萎縮を認めないことから、「皮質性小脳萎縮症」と臨床診断されることも稀ではありません。パーキンソン症候としては、固縮と動作緩慢が中心であり、時にパーキンソン様の振戦を診る例があります。初期には抗パーキンソン病薬にある程度反応する例もあります。しかし、ADLの低下が早く、薬の効果も不十分であるなど特発性パーキンソン病としては非典型的経過を示す例においては、MSAである可能性が高いです。自律神経症状としては、起立性低血圧による立ち眩みや失神(ごく短時間の意識消失発作であり後遺症を残さず回復)、頻尿、尿失禁(自分の意思と関係なく尿が漏れる)、稀に便失禁(自分の意思と関係なく便が漏れる)、男性であれば勃起不全、発汗低下、睡眠時無呼吸などがあります。呼吸器症状である吸気性喘鳴(stridor)はMSAの13-42%に合併し、MSAのタイプにかかわらず、全経過で出現します。嚥下障害や重度の自律神経障害はstridorとの関連が考えられています。MSAの進行期になると、これら小脳系、自律神経系、パーキンソニズムの症候は互いに重複してきます。MSAの発病に先立って、睡眠時に過度の歯ぎしり、体動、独語、怒鳴る、動き回るなど、レム睡眠行動異常症(RBD)としての症候が先行する例があります。錐体路症候としては腱反射が軽度に亢進(太い骨格筋につながる腱をハンマーで叩くと筋が不随意に収縮する反射が強く出現)し、足底反射の異常(第1-2足趾の足底の根本付近に圧迫刺激を加えると足趾の底屈が生じ持続)を伴います。通常、感覚障害を認めません。

【治療】

根治的治療法は知られていません。症状に応じてリハビリテーションを行い、身体機能の維持に努めます。パーキンソニズム、起立性低血圧、神経因性膀胱に対しては薬がある程度に効く場合もあるので、試みる価値があります。自力で排尿できない場合は間欠的導尿、もしくはバルーン留置を行います。進行期には誤嚥のため栄養摂取が不十分となり、肺炎や尿路感染症などを併発しやすくなります。したがって、運動、栄養管理、感染症予防が療養の中心となります。夜間無呼吸を伴う場合は非侵襲的陽圧換気(NIPPV)などの補助呼吸を併用することも考慮する必要があります。声帯外転不全や舌根沈下による上気道閉塞をきたす場合はNIPPVでは対応できないので、患者様の希望により気管切開も考慮する必要があります。声帯外転麻痺は病初期には睡眠中のみにみられ、進行期では覚醒時にも出現します。声帯外転麻痺に対する持続陽圧呼吸(CPAP)の有用性も報告されているが、喉頭軟化症・ぐにゃぐにゃ喉頭(floppy epiglottis)がある場合は、CPAPにより上気道閉塞を悪化させることがあり注意が必要です。声帯外転麻痺の治療については、睡眠時のみでは慎重な経過観察とし、終夜酸素濃度(SpO2測定にてSpO2が90%以下の占める割合が20%以上のときに気管切開術の適応となります。進行期においては延髄呼吸中枢の障害により中枢性無呼吸をきたすので、気管切開しても突然死が起こりうることをあらかじめ認識しておく必要があります。

【予後】

遺伝性運動失調症に比べて進行は早いです。発症して数年で独歩困難となり、10年前後で死亡する例が目立ちます。予後を左右するもとして、パーキンソニズム、終末期の誤嚥性肺炎と尿路感染症、突然死があります。

【診断基準】

厚生労働省研究班による診断基準に準じます。その概略は、(1)成年発症(>30歳)、進行性経過、稀な例外を除いて基本的には孤発性であること、(2)自律神経障害を伴い(尿失禁、勃起障害、収縮期血圧で30もしくは拡張期血圧で15mmHg以上の起立性低血圧)、(3)小脳症候もしくはL-ドパ製剤に反応の乏しいパーキンソニズムのどちらかを伴うこと、を基本としています。最近のコンセンサス基準第2版においては、錐体路徴候、画像診断所見、特発性パーキンソン病に合致しない非典型的経過を取り入れた基準となっています。特に画像診断では、MRIにおける橋、小脳、被殻の萎縮、同部位の信号強度の異常を認める。PETもしくはSPECTでは脳幹、小脳、基底核の血流低下、もしくは糖代謝低下を認める。123I-MIBG心筋シンチグラフィーにおいては、パーキンソン病とは異なり心臓の描出は保たれるとされています。通常の血液検査では特異的異常を認めません。

【重症度】

指定難病の申請においてはmodified Rankin Scale (mRS)、食事・栄養、呼吸の各評価スケールを用いて、いずれかが3度以上の場合を対象とする。

 

*重症度評価スケールは、大脳基底核変性症の疾患説明の最後にまとめとして記載しています。確認希望あればご参照ください。

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