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進行性核上性麻痺

【疾患概念】

核上性の垂直性眼球運動障害(眼が上下方向に動かない)、偽性球麻痺(むせこみ)、構音障害(呂律がまわらない)、筋強剛(筋肉・関節が硬くなる)を示す進行性の疾患が、Steeleら(1964)により進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy: PSP)として初めて報告されました。中年期以降に発症し、淡蒼球、視床下部、赤核、黒質、脳幹被蓋、小脳歯状核の神経細胞が脱落します。病理学的にはアストロサイト内に異常リン酸化タウが蓄積する構造(tufted astrocytes)が特異的です。病理診断と臨床診断とが解離することもあります。

【原因】

原因は不明です。神経細胞・グリア細胞のタウ蛋白の異常蓄積が重視され、タウオパチーの1つと考えられています。

【疫学】

日本における有病率は10万人当たり10~20人とされています。

【症状・兆候】

易転倒性(転びやすくなる)が特徴であり、通常、初期から認めます。姿勢反射が障害(体が傾いた時に、健常人は重心を移動してバランスを取ります。それでも耐えきれないときは、足を踏み出して転倒を防ぐ。これが障害されて転倒しやすくなった状態)され、注意力や危険に対する認知力低下も転倒に影響し、注意を促しても繰り返して転倒してしまいます。周囲にあるものをつかもうとして手を伸ばし、車椅子やベッドから転落することもあります。垂直性の核上性注視麻痺(両眼で上下方向を見ることができなくなること)も特徴的症状であるが、発症初期には目立たないことが多いです。下方視の障害(両眼で下方向を見ることができない)が特徴的で、進行してくると水平方向も障害(左右方向を見ることができない)されます。筋強剛は四肢より頸部や体幹に強い傾向を示します。進行すると頸部が後屈(常に顔が天井を見上げている状態)してきます。無動・寡動(動作緩慢)もみられるようになります。認知症も合併するが、見当識障害や記銘力障害はあっても軽いです。前頭葉性の認知機能障害を主体とし、思考の緩徐化(思考や集中力が鈍くなること)、情動(喜び、悲しみ、怒り、恐怖、不安などの激しい感情の動き)・性格の変化、遂行機能障害(目的を持った一連の活動を効果的に成し遂げることができなくなる)がみられます。種々の言語障害も合併します。嚥下障害(飲み込みにくくなり、むせこんだりすること)も多くみられますが中期以降に出現することが多いです。PSPの典型例はリチャードソン症候群(RS 典型群)とよばれ、非典型例として、PSP-Parkinsonism(PSP-P パーキンソン病類似の臨床像を呈す群)、PSP-pure akinesia with gait freezing(PSP-PAGF すくみ足を伴う純粋無動群)、PSP-corticobasal syndrome(PSP-CBS 大脳基底核変性症類似群)、PSP-progressive non-fluent aphasia(PSP-PNFA 進行性非流暢性失語群)、PSP with cerebellar ataxia(PSP-C 小脳失調症を伴う群)と呼ばれる病型があります。疾患分類の横文字表記が多く申し訳ありませんが、以下の臨床症状・経過を来すパターンがあるということです。

(1)リチャードソン症候群(RS 典型群):易転倒性、垂直性核上性注視麻痺を呈し、PSPとして典型的な症状と経過を示します。英国からの報告ではPSPの半数超がRSとされています。

(2)PSP-Parkinsonism(PSP-P パーキンソン病類似の臨床像を呈する群):パーキンソン病(PD)に似て左右差や振戦を認め、初期にはL-ドパ製剤がある程度有効で、早期の眼球運動障害を欠く、英国からの報告ではPSPの約1/3とされています。RSより転倒や認知機能障害の出現が遅く、生存期間も長い。初期にはPDとの鑑別が難しいが、PDに比較すると進行が早く、体軸の筋強剛を認め、L-ドパ製剤に対する反応が弱いです。

(3)PSP-pure akinesia with gait freezing(PSP-PAGF すくみ足を伴う純粋無動群):無動や歩行障害、言語・歩行のすくみを主とし、筋強剛や振戦を欠き、眼球運動障害は末期になるまで出現しないことが多いです。罹病期間も13年程度とされ、RSに比較すると長いです。日本から報告された純粋無動症に相当します。

(4)PSP-corticobasal syndrome(PSP-CBS 大脳基底核変性症類似群):症状が左右非対称性で、失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候などの大脳皮質症状とともに、筋強剛、無動、ジストニアなどの錐体外路症状を示して大脳皮質基底核症候群(CBS)に類似した症状を呈します。

(5)PSP-progressive non-fluent aphasia(PSP-PNFA 進行性非流暢性失語群):非流暢性の自発語を呈し、呼称や語想起の困難さ、努力性の発話、音韻性錯誤を示す。言語の表出が主として障害され、他の認知機能は比較的保たれる傾向を示します。

(6)PSP with cerebellar ataxia(PSP-C 小脳失調症を伴う群):小脳性運動失調で発症あるいは主徴とし、日本から報告された臨床亜型で、欧米では稀とされています。

【検査】

頭部MRI検査で中脳被蓋部の萎縮(humming bird sign)がみられます。第三脳室の拡大を認め、前頭葉萎縮も出現します。機能画像検査であるドパミントランスポーターシンチグラフィー(ダットスキャン)で集積低下がみられ、123I-MIBG心筋シンチグラフィーにおける心臓/縦隔比は原則として正常です。

【治療】

根本的な治療法はまだありません。初期にはL-Dopa製剤が効く場合もあるが、効果は長続きしないことが多いです。抗うつ薬も試みられることがあります。リハビリテーションが行われ、頸部・体幹部や四肢のストレッチ運動、歩行訓練やバランス訓練、関節可動域訓練、嚥下訓練、言語訓練や嚥下訓練も行われます。

【予後】

典型例では発症後2,3年で車椅子を必要とするようになり、4,5年で臥床状態になり、平均罹病期間は5~9年という報告が多いです。死亡の多くは肺炎や喀痰による窒息などが多いです。

【診断基準】

指定難病としてのPSP診断基準は、40歳以降で発症することが多く、緩徐進行性であることとともに、主要徴候として、(1)垂直性核上性眼球運動障害(初期には垂直性衝動性眼球運動の緩徐化であるが、進行するにつれて上下方向への注視麻痺が顕著になってくる)、(2)発症想起(概ね1~2年以内)から姿勢の不安定さや易転倒性(すくみ足、立ち直り反射障害、突進現象)が目立ち、(3)無動あるいは筋強剛があり、四肢末梢よりも体幹部や頸部に目立つことのうちの2項目以上の症候を示し、次の疾患を除外する必要があります。すなわち、(1)L-ドパ製剤が著効(PDの除外)、(2)初期から高度の自律神経障害の存在[多系統萎縮症(MSA)の除外]、(3)顕著な多発ニューロパチー(末梢神経障害による運動障害や眼球運動障害の除外)、(4)肢節運動失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候、神経症状の著しい左右差の存在(大脳皮質基底核変性症の除外)、(5)脳血管障害、脳炎、外傷などを除外します。

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